大判例

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大津地方裁判所 昭和44年(ワ)198号 判決

原告

宇山武

ほか三名

被告

株式会社京都東洋冷菓

ほか二名

主文

一、被告株式会社八幡東洋冷菓および被告中村貴美男は、各自

(一)  1 原告宇山武に対して金三、五四一、三二四円

2 原告宇山弘子に対して金三、三四一、三二四円

3 原告宇山宗雄に対して金五〇〇、〇〇円

4 原告宇山アサヱに対して金五〇〇、〇〇〇円

およびそれぞれ右各金員に対する被告株式会社八幡東洋冷菓については昭和四五年一月一二日より、被告中村貴美男については同月一三日より各完済に至るまで年五分の割合による金員を、

(二)  原告宇山武に対して金五〇万円を、

各支払え。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分しその二を被告株式会社八幡東洋冷菓、同中村貴美男の負担とし、その一を原告らの負担とする。

四  この判決は原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告ら)

一、被告らは各自

(一) 1 原告宇山武に対し 金五、八八三、五〇二円

2 原告宇山弘子に対し 金五、二七八、五五八円

3 原告宇山宗雄に対し 金一、〇〇〇、〇〇〇円

4 原告宇山アサヱに対し金一、〇〇〇、〇〇〇円

およびそれぞれ右各金員に対する被告株式会社京都東洋冷菓については昭和四五年一月一一日より、被告株式会社八幡東洋冷菓については同月一二日より、被告中村貴美男については同月一三日より各完済に至るまで年五分の割合による金員を、

(二) 原告らに対し金五〇〇、〇〇〇円を、

各支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、仮執行の宣言

(被告ら)

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、本件事故の態様

被告中村貴美男は、昭和四四年七月二九日午後四時五分頃軽四輪貨物自動車(六滋さ一九五四号)を運転し、大津市松原町付近道路を石山方面から浜大津方面に向け、時速約六〇キロメートルで進行中、疲労と睡眠不足のため眠気を催し前方注視が困難な状態になつたのに拘らず、運転を中止して休息し眠気を解消させてから運転を再開するなどして事故発生を未然に防止する注意義務を怠り、そのまゝ運転を継続した過失により、同市中庄一丁目一九番地先に差しかかつた際、一瞬仮睡状態に陥り、自車を道路左側に暴走させ、折柄同所を同方向に進行していた訴外宇山孝之操縦の足踏自転車後部に自車前部を衝突させて同人をはねとばし、約二〇メートル前方のコンクリート側溝に転倒させ、よつて同人をして脳挫傷により翌三〇日午前七時四〇分頃同市富士見台滋賀病院において死亡するに至らせた。

二、身分関係

原告武および同弘子は孝之の実父母であり、原告宗雄および同アサヱはその祖父母である。

三、責任原因

被告会社らは、第一項の被告中村が運転していた自動車を共同して自己のために運行の用に供していたものであり、被告中村は自己の過失により本件事故を起こし、よつて孝之を死亡させたものであるから、被告らは各自原告らに対し本件事故による損害を賠償する義務がある。

四、損害

(一) 孝之の逸失利益

1 孝之は昭和三〇年八月三〇日生れの男子で、事故時大津市立粟津中学校二年在学中であつたが、同人は小学校、中学校を通じて常に学業成績優秀で、成績順位は同学年生約四二〇人中の上位一〇番以内にあり、又、水泳、ソフトボール、サッカー、漕艇等のスポーツを愛好し、日頃身体の鍛錬に努め、事故時身長一六八センチメートル、体重五四キログラムで極めて健康であり、かねて高校を経て理科系の大学に進学し、医師若しくは理工科系技術者になることを望んでいた。

2 したがつて、孝之は本件事故により死亡しなかつたならば昭和五三年三月には理科系大学を卒業して大企業に就職し、六三才に達する昭和九三年三月迄の四〇年間は給与所得を得られた筈である。而して昭和四四年三月理工科系大学卒業者の初任給は、大阪商工会議所の調査によると八三九社の平均は、月額金三三、六〇〇円であり、孝之も昭和五三年四月より少なくとも右同額の給与所得をえられると推定され、且右給与額は毎年少なくとも五パーセント宛昇給するものと推定される。

一方孝之の生活費は右給与額の五〇パーセントを上廻ることはないと推定される。

3 よつて昭和五三年四月の初任給を月額金三三、六〇〇円とし、一年毎の昇給率を五パーセント、生活費を給与所得額の五〇パーセントとし、一年毎に年五分の割合で中間利息を控除すると、事故時点における孝之の逸失利益は金九、五五七、一一六円となる。

4 原告武、同弘子は、孝之の逸失利益の賠償請求権を各二分の一の法定相続分に応じて相続した。

(二) 葬祭費関係

1 原告武は孝之の事故死で金三一七、六〇四円の葬儀費を支出し、同額の損害を蒙つた。

2 原告武は孝之の祭(一〇日祭、二〇日祭、三〇日祭、五〇日祭および一〇〇日祭)費として金八八、八四〇円支出し、同額の損害を蒙つた。

3 原告武は孝之の墓碑建立費として金一九八、五〇〇円支出し同額の損害を蒙つた。

(三) 慰藉料

孝之は前述のとおり健康で学業成績も良く、また性格も優和であつて、その前途は明るく、同人は、原告らの家族一同にとつて希望そのものであつた。特に孝之は原告武、同弘子の間の唯一人の子であり、しかも原告武は、昭和二六年大津少年鑑別所勤務中、逃走を企てた収容者を取り押える為格闘した際、左前頭部に全治三ケ月の重傷をうけ、今なおその後遺症のため治療を受けながら軽度の職務に従事することを余儀なくされている現状であり、原告武と弘子にとつては孝之の存在は心の支えであり、その生長こそ生甲斐であつた。この子を失つた原告武、同弘子の悲しみは言語に絶するものがあり、かつ同原告らが老いていくに従いその悲しみはいよいよ深まることであろう。また既に老境にあり唯一人の内孫の生長を限りない慈愛の眠で見つめることを至上の楽しみとしていた祖父母たる原告宗雄、同アサヱの悲嘆も、父母である原告武、同弘子のそれに勝るとも劣らないものである。加えて本件事故は被告中村のいわゆる居眠り運転という一方的重過失に起因するものであり、同被告は孝之の葬儀にも顔を出さず、損害の賠償を含め事故後の処置につき、被告らは全く誠意をみせない。

以上諸般の事情を斟酌し、本件事故により原告らの被つた精神的苦痛に対する慰藉料としては、少なくとも原告武、同弘子については各金二〇〇万円、原告宗雄、同アサヱについては各金一〇〇万円をもつて相当とする。

(四) 弁護士費用

原告らはいずれも法律にうとく、自ら訴訟行為を遂行できないので、昭和四四年九月本件原告ら訴訟代理人両名に本件訴訟追行を委任し、原告らは連帯して右代理人らに即日着手金として金一五万円を支払い、さらに報酬として判決言渡日に金三五万円を支払う旨約束した。

五、損害填補

原告武、同弘子は自賠責保険金として金三〇〇万円の支払いをうけたので、これを四項の(一)の逸失利益の賠償請求権の内金に充当する。

六、結論

よつて被告ら各自に対し、

原告武は、四項の(一)の金額から五項の金額を控除した残額の二分の一にあたる金三、二七八、五五八円と四項の(二)、(三)の金額の合計金五、八八三、五〇二円と、これに対する訴状送達の翌日(被告株式会社京都東洋冷菓につき昭和四五年一月一一日、同株式会社八幡東洋冷菓につき同年同月一二日、被告中村貴美男につき同年同月一三日)より各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告弘子は四項の(一)の金額から五項の金額を控除した残額の二分の一にあたる金三、二七八、五五八円と四項の(三)の金額との合計金五、二七八、五五八円およびこれに対する前同様の遅延損害金、

原告宗雄、同アサヱはそれぞれ四項の(三)の慰藉料金一〇〇万円とこれに対する前同様の遅延損害金の支払いを求め、更に原告らは被告ら各自に対し四項の(四)の金五〇万円の支払いを求める。

(請求の原因に対する認否)

一、請求原因第一項記載の事実は認める。

二、同第二項記載の事実は不知

三、同第三項中被告株式会社京都東洋冷菓が本件加害自動車を自己のために運行の用に供していた事実は否認するが、その余の事実は認める。

四、同第四項記載の事実は不知

なお、被告らは損害額の算定に関し次のとおり主張する。

(一) 逸失利益の算定について

原告らは孝之が将来理科系大学を卒業し、大企業に就職し、六三才まで給与所得を得られた筈であると主張するが、死亡当事孝之は中学二年在学中であり、将来大学を卒業できる蓋然性は乏しく、まして理科系の大学を卒業して大企業に就職するにいたつてはなおさらその蓋然性は乏しい。

また原告らは孝之の給与額が毎年五パーセント宛昇給すると推定しているが、これも蓋然性は少ない。給与額が昇給していくことを否定するものではないが、一率に五パーセントの昇給をしてそれにともなう支出を考慮しないのでは一方的な主張であるし、給与はある時点迄は上昇するであろうが、一定の段階にいたれば昇給はストップするかあるいは昇給率が微々たるものになると推定できるからである。

従つて、被告らは二〇才の男子の平均給与を基準とし、昇給を考慮しないかわりに、生活費を五〇パーセントに固定して二〇才から六〇才までの得べかりし収入を算定するのが控え目な計算として最も蓋然性の高い計算方法と考える。

(二) 葬祭費関係について

原告ら請求の葬祭費は、これらがいわゆる広義の葬祭費に含まれるかどうかは別論として、これら費用のうち認容される額はその支出した額によるのではなく、社会的に相当な額の範囲内でなければならず、孝之はいまだ社会的に地位も有しない未成年者であつたから、その葬祭費用等としては金二〇万円をもつてその相当額とされるべきである。

(三) 祖父母の慰藉料請求について

原告宗雄、同アサヱは孝之の祖父母であるが、孝之に父母がいない場合ならともかく、父母が原告としてそれぞれ慰藉料を請求している本件のような場合は、祖父母の存在も父母の慰藉料算定の際考慮する事情とみなし、祖父母の自らの慰藉料請求はこれを否定すべきである。

五、同第五項記載の事実は認める。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、請求原因第一項(事故の態様)記載の事実は当事者間に争いがない。

二、請求原因第二項(身分関係)記載の事実は〔証拠略〕によつて認めることができる。

三、請求原因第三項(責任原因)記載の事実のうち、被告株式会社京都東洋冷菓が本件加害自動車の運行供用者であるとの点を除いてはいずれも当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、被告株式会社八幡東洋冷菓と被告株式会社八幡東株 菓とはその各代表者が夫妻であり、票種も同様であるけれども一応は別個の株式会社であり、被告中村は後社の社員であつて前社と関係なく、本件加害自動車も後社のため運行に供用されていたもので前社と関係のないことが認められ、この認定に反する甲第三号証の六、原告武本人の供述部分は、前記証拠と対比して措信できず、他に被告株式会社京都東洋冷菓が本件加害自動車の運行供用者であると認めるべき証拠はない。

四、そこで、請求原因第四項(損害)について判断する。

(一)  孝之の逸失利益

(1)  〔証拠略〕を総合すれば、「孝之は、昭和三〇年八月三〇日生の男子で死亡時大津市立粟津中学校二年生で満一四才であり、小学校・中学校を通じて学業成績は優秀で身体も健康であり、将来大学の理工科系学部への進学を希望し、両親である原告武、同弘子も孝之を大学へ進学させる予定でいた。」事実が認められ、このような事実からして、孝之が将来大学へ進学する蓋然性は高いと考えなければならない。そして、一般に大学卒業者は中、高校卒業者よりも初任給が高額であることも公知の事実である。

しかしながら、右のような事実があるからといつて、孝之が将来如何なる職を選び如何程の収入を得ることができるかを具体的に予測することは困難である。将来理科系大学進学を志望していたとしても、いまだ必ずしも心身の安定していない中学生の志望であり、これをもつてその将来の職業を予測することには疑問がある。仮に、このような場合に大学卒業者である限り一流企業に就職することができると考えても、就職後の給与が一年五パーセントの割合で昇給するとの原告らの主張には賛同できない。また純収入を算定するに必要な生活費控除についても、その具体的な額についてはもちろん、その収入額に対する割合を算出することも困難である。

本件のように、未成年未就労の者の将来得べかりし利益額を算出することは一般に頗る困難であり、これが本件のように大学における専門教育を受けることの蓋然性の高い場合においても、他に不確定要素が多く、仮に複雑困難な推定や計算をしてもその正確性は保証し難い。

仮に、本件において、原告ら主張のように大学を卒業して一流企業に就職し、その初任給が月額金三三、六〇〇円であることまで認められるとしても、その後一年五パーセントの割で昇給し続けるというようなことは、その証拠もないしこれを認容すべき根拠もないから、昇給の点を除く他なく、そうすると、右初任給を基準として算出しなければならない。しかし、若年の学卒者の初任給は低いが、その後は昇給してゆくことは、その昇給率の点はともかくとして、公知の事実であるから、初任給を基準とする推定、計算の方法は原告らに対しては逸失利益の総額が少額となり公平とは言えないであろう。

以上のような点を考え、かつは損害賠償は被害者側の救済に資することは当然ながら、加害者側に対し過重な負担を負わす結果になるようなことを避け、損失の公平な分担を窮極の目的とするものであることからして、当裁判所としては、本件においては左記のような一般平均的な給与所得者の所得のうち比較的控え目な数字を基準にして算定するのが、最も蓋然性を失わず合理的、合目的であると考える。

(2)  前認定のように、孝之は死亡時満一四才の健康な男子であつたから、厚生省第一二回生命表によればその平均余命は五五・九〇年と認められ、この平均余命程度は生存し得て、この間満二〇才から満六〇才までの四〇年間にわたり職業に就いて収入を得たであろうと推認される。この前提の下に、総理府統計局編・日本統計月報所内の産業別常用労働者賃金表に記載の規模五人ないし二九人の事業所の昭和四四年度の男子平均賃金月額金五八、一〇一円の収入を得、この収入を得るために必要な生活費を五割とみて、これを控除した残額金二九、〇五一円の一ケ年分金三四八、六一二円を基準とし、年五分の中間利息控除につきホフマン式(年利複式)計算法を使用して死亡時である満一四才当時の現価を求めると、金六、六八二、六四八円(348,612円×(23.5337-4.3644)≒6,682,648円)となり、これが孝之の得べかりし純収入の現価と推認すべきである。

(3)  原告武、同弘子は、孝之の死亡により各二分の一の割合で右逸失利益賠償請求権を相続したことになり、自賠責保険金として金三〇〇万円を受領し、これを右賠償請求権に充当したことはその自認するところであるから、結局同人らの相続による逸失利益賠償請求権はそれぞれ金一、八四一、三二四円となる。

(二)  葬祭費関係

〔証拠略〕によれば原告武は孝之の死亡に伴い同人の葬儀、祭祀のため請求原因第四項の(二)の(1)(2)の記載のとおりの費用を要し、更に墓碑建立のため同項(二)の(3)記載のとおりの費用を出捐したことが認められるが、孝之が死亡当時社会的地位を有しない未成年者であつたこと等の事情を考慮に入れ本件と相当因果関係ある損害というべきものはこのうち金二〇万円の範囲に限りこれを被告らに負担させるのが相当と認める。

(三)  慰藉料

(1)  後記認定のとおり、孝之は原告武と同弘子の唯一人の子供であつたこと、事故の態様その他諸般の事情に〔証拠略〕を総合し、同原告らに対する慰藉料は各金一五〇万円が相当であると認める。

(2)  原告宗雄、同アサヱは孝之の祖父母であることは前記認定のとおりであり、同原告らが孝之の死亡により被告らに対して慰藉料を請求できるかどうかは問題の存するところである。しかしながら、〔証拠略〕によると、

原告宗雄(明治二五年四月二二日生)は昭和二七年まで滋賀刑務所長の職にあり、その妻原告アサヱ(明治三一年六月一二日生)との間には、原告武の他にその兄一敏(大正七年九月一〇日生)がいるが、同人は東京教育大学の教授を七年位勤めたこともあつたが、戦後健康を害し、前記職に復することもできず、その後引続き胃潰瘍や糖尿病を煩い病床に臥したままで、妻帯したこともない。

原告武は、父と同じ職業に進んだが、昭和二六年七月八日大津少年鑑別所で夜間の当直勤務中、逃走をはかつた収容少年三名を取押えようとして格闘したとき、少年に頭部を兇器で殴られ、頭蓋内出血をともなう脳外傷を負い、その傷は一応治癒したが昭和三一年夏頃に後遺症が起こり、現在に至るまで治療のため京都大学医学部付属病院へ通院している。右のような状態であるから、現在では専ら軽い仕事にしか従事できず、後遺症が起るまでは課長であつたのに、その後は課長補佐に格下げされて現在に至つている有様である。

そして、原告武同弘子夫婦には孝之の後に子が生まれず、原告宗雄、同アサヱにとつては孝之が唯一人の孫であり、その出生以来同居し、子である原告武や一敏の右のような健康状態からして孝之の将来にその望を託し、同人をことのほか可愛がつて来たものであり、孝之も生前は祖父母のこのような情によく応えていた。このような関係から、原告宗雄、同アサヱにとつては、孝之の死亡は将来の希望を断切られたと同様で、その子を失くしたのに劣らない精神的打撃を受けている。

事実が認められる。

右認定事実のように、本件においては、孝之の死亡がその祖父母である原告宗雄、同アサヱに与えた精神的打撃は、通常の場合の孫と祖父母との関係と異る。同原告らが、実子である一敏武の右認定の様な状態から孫の孝之に夢を託し同人の成長に期待し、これを唯一の生きがいとしていた心境は首肯できるところであり、孝之の死亡はこのような同原告らの希望一切を無にしてしまつたことになるのであるから、これによる同原告らの精神的苦痛に対しては、通常の場合と異りこれを慰藉する方法が採られるべきである。これを父母である原告武、同弘子の慰藉料算定の際の附随的事情に過ぎないものとしてしまうことは相当でないと考える。

右説示のような点、その他本件における一切の事情を集約し、祖父母である原告宗雄、同アサヱの蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては各金五〇万円が相当である。

(四)  弁護士費用

〔証拠略〕によると、被告らはいずれも任意の弁済に応じないので、原告武は昭和四四年九月弁護士たる本件原告ら訴訟代理人らに本件訴の提起と追行を委任し、手数料として金一五万円を即日支払いさらに報酬として判決言渡日に金三五万円を支払うことを約した事実が認められるが、この事実から、弁護士費用賠償請求権は原告武のみが有し、他の原告らはこれに関係ないものというべきであり、そしてその賠償額は本件訴訟の経緯に鑑み金五〇万円をもつて相当する。

五、結論

原告らの被告株式会社京都東洋冷菓に対する請求は第三項後段記載の事由により、その理由がないからこれを棄却する。

被告株式会社八幡東洋冷菓、同中村貴美男は各自、原告宇山武に対しては第四項(一)の金一、八四一、三二四円、同(二)の金二〇万円、同(三)の金一五〇万円の合計三、五四一、三二四円、原告宇山弘子に対しては第四項(一)の金一、八四一、三二四円、同(三)の金一五〇万円の合計金三、三四一、三二四円および右各金員に対する本件不法行為後である被告株式会社八幡冷菓については昭和四五一月一二日以後、同中村については同年同月一三日以後各完済にに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告宇山宗雄、同宇山アサヱに対してはそれぞれ第四項(三)の金五〇万円およびこれに対する前同様の遅延損害金を支払うべき義務があり、さらに原告武に対して第四項(四)の金五〇万円を支払うべき義務がある。したがつて、原告らの右両被告に対する請求は右認定の限度において理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言については同法第一九二条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 上田豊三 木村修治)

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